近年,身体性に関する様々な議論がなされている.例えば,メルロ=ポンティは,単なる物理的な身体的性質だけでなく,経験や学習により得られた性質も「身体性」に含まれると議論している.また,空間知に関する研究では,身体性を拡張するための概念や方法論に関する議論も行われている.本研究では,複数のロボットから構成されるマルチロボットの隊列行動を身体性の観点から議論する.マルチロボットの適用事例として,災害現場や未知環境などの探索があり,環境条件は動的なものであることが多い.複数のロボットが探索を行うことにより,1台1台の性能が低くとも,高性能な1台に匹敵する,あるいは,それ以上の精度・効率の探索を行える可能性がある.複数のロボットが効率の良い探索を行うためには,隊列移動を行うためのフォーメーションを構成する必要がある.環境は時々刻々と変化し得るため,それに相応しいフォーメーション形態も同様に変化していく.本研究では,動的に変化する環境に適応するマルチロボットフォーメーションの構成手法を提案する.はじめに,多目的行動調停の手法を応用し,ファジィ制御によって得られた障害物回避や目標追従の出力の統合を行う.さらに,フォーメーション行動のための最適目標位置の計算にバネモデルを適用する.そして,ルースカップリングとタイトカップリングの概念から提案手法について議論を行う.タイトカップリングはバネモデルによって実現され,一方,ルースカップリングは他のロボットとの結合関係の接続と切断に基づく個別の意思決定によって実現される.次に,環境状態の変化に適応する結合関係と自然長の更新に基づくフォーメーションの形状変化手法を提案し,道幅の変化に適応するための三角形型フォーメーションからカラム型フォーメーションへの変形に適用する.さらに,未知環境におけるモニタリングに適用する.最後に,シミュレーション結果を通じて提案手法の有効性を身体性の視点から議論する.