本論文では,「楽しい⇔悲しい」,「うれしい⇔怒り」,「のどか⇔緊迫」という3種類の印象を対象に,テキストを読んだ人々が感じる印象の強さを数値的に求めるための手法を提案する.印象の強さ(すなわち印象値)を算出するためには,テキストから抽出される特徴量がテキストの印象に及ぼす影響力を数値化し,印象辞書に登録しておく必要がある.このような印象辞書は,従来,印象の種類ごとに構築され,それぞれの印象値を算出するためにだけ用いられるが,本論文では,それぞれの印象が独立ではない点に着目し,各印象辞書を用いて算出されるテキストの印象値から,それぞれの印象値を算出し直すという新たなアプローチを試みる.具体的には,テキストから抽出する特徴量として,単語 unigram と単語 bigram の2種類を定義し,既存手法を用いて新聞記事データベースから6つの印象辞書(3種類の印象×2種類の特徴量)を構築する.各印象辞書を用いて算出されるテキストの印象値を説明変数(6個),アンケート調査に基づいて数値化されるテキスト本来の印象値を目的変数とする重回帰分析を印象の種類ごとに行い,それぞれの対応関係を重回帰式という形で定式化する.未知データに対する提案手法の精度を5分割交差検定により調べてみたところ,それぞれの印象における平均誤差は,1~7の7段階評価尺度に対して 0.68,0.57,0.62 であり,その有効性が確認された.