澱粉の製造上の諸問題の中判然としないものの一つに生粉貯蔵中の有機酸醗酵現象が挙げられる。生粉の醗酵とは澱粉その他種々の水溶性糖を基質に嫌気性の細菌により嫌気性醗酵を受けることであるが,それによる品質および歩留りの低下は澱粉の主産地として11月頃より大量に貯蔵を予儀なくされる地方においては相当大きな関心事である。生粉の醗酵に関して頼富,吉田三角,丸山,山崎,今井,らの研究があり,pHのコントロールが醗酵防止に効果があり,また生成酸は主に酪酸であることが報告されている。著者らは以上の研究に対してさらに検討を加えるとともに,醸酵に関与する一連の事項,すなわち実際貯蔵された貯蔵澱粉中における有機酸の生成の実体,生成有機酸のぺーパークロマトグラフイによる定性試験,生粉貯蔵中の変化,醗酵に関与する微生物の分離整理,生成有機酸の澱粉への吸着,および洗滌による脱酸試験,種々の醸酵防止剤による防止試験,防止剤使用澱粉の物理的特性の変化について実験を行つているが,まず貯蔵澱粉中の有機酸生成の実体及び生成酸のペーパークロマトグラフイーによる定性試験についての2,3の知見について報告する。