昭和57年11月, 埼玉県大里郡大里村住民211人の嗜好調査結果および検診データを資料として, 人間の食物に対する嗜好特性とその嗜好を形成している嗜好要因との関連性を総合的に分析する方法について検討するため, 林の数量化理論第皿類によるパターン分類を行い, 食物嗜好の因子構造を観察し, 次の結果を得た. 1) 対象者の常用食物33項目に対する三つのカテゴリーからなる嗜好を変数として, 分析の結果得られた三つの軸に対する固有値は, γ1=0.425, γ2=0.374, γ3=0.318であった. 2) 第1および第2特性根に対するアイテム・カテゴリー値の分布状況により, 1軸は食物嗜好のカテゴリーを, 2軸は食品項目を示す軸と考えられ, 調理形態や食品群が類似している場合, 近似した嗜好傾向を示した. 3) 対象老個人の嗜好データであるサソプルスコアの分布状況から, (1) 年代の相違によって料理形態, 食品群の嗜好差がみられた. (2) 食物に対して偏った嗜好が肥満要因に関連があることを示唆した. (3) 和風料理や日本酒を好む嗜好要因, および肉類, 乳類を好まない嗜好特性が高血圧と関連した. (4) 洋風料理を好む食嗜好が高血清脂質と関連していた. (5) 喫煙, 飲酒の習慣を有するものは, 高血圧との関連を示した. 4) 洋風料理形態とその料理に付随した肉類や乳類を好む嗜好特性が20~40歳代, 高T-ch値, 高TG値, うすい塩味を好むなど複数の嗜好要因に関連しており, 漬物, 味噌汁, 麺類などの和風料理および日本酒を好む嗜好特性が, 50~60歳代, 高血圧, 喫煙, 塩からい味を好むなどの複数の要因に関連していた. 今回, 分析に用いた資料は対象者の性, 年齢に偏りがあり, 分析結果にもその影響があったものと考えられるので, 今後, 同一属性での検討が必要であるが, 人間の食物に対する複雑な嗜好構造の要因分析に, この解析方法を適用することは妥当であると考える.