野菜の加熱軟化に及ぼす食塩添加の影響を日常調理の面から把握するとともに, その軟化の機構を解明することを目的として, ダイコン根部を用いその木部柔組織の硬さと組織形態の変化を調べた. 1) 加熱による軟化は70℃以上で起こるが, 70℃では脱イオン水の場合の軟化度は小さく, 2%食塩添加で著しい軟化を示した.それ以上の温度では食塩添加により軟化がいっそう促進された. 2) 食塩は煮熟液に0.5%添加しても軟化を促進し, 5%までは濃度が大であるほど早く軟化した.食塩添加加熱では表面の軟化が著しく, 内部の軟化はそれより遅れた. 3) 脱イオン水での煮熟の後食塩を添茄すると, それ以後は対照より顕著に硬度が低下するが, 煮熟当初に同濃度の食塩を添加したものとほぼ同等までであった. 4) 酢酸ナトリウムを添加して煮熟した場合も軟化を促進することから, 食塩添加の影響はNa+に起因するといえる. 5) 光顕, 電顕による柔組織の観察結果から, 脱イオン水煮熟では細胞壁の中層の位置で分離し軟化するのに対して, 食塩水煮熟では細胞壁全体が膨潤し, 第1次壁にも顕著な軟弱化が起こることがわかった.