加熱調理のさいの野菜の軟化の難易とペクチン質の量および組成との関係を21種類の野菜を用いて検討した結果, 次のような知見を得た. 1) これらの野菜のペクチン質を, 希塩酸, 続いて酢酸塩緩衝液およびヘキサメタリン酸ナトリウム溶液で分別抽出した.ペクチン質の分別抽出パターンおよび煮熟による野菜の組織の軟化度は, 野菜の種類により大きく異なった. 2) 加熱調理のさい軟化しやすい野菜は希塩酸抽出区分 (A区分) の割合が多かった.A区分のペクチン質のエステル化度が約59~79%と高く, カルシウムによる沈殿を起こさなかった.そのため比較的多量のメチルエステルがガラクチュロン酸鎖上に一様に分布しており, 煮熟によりペクチン質がトランスエリミネーションによる分解を起こしやすく, 低分子にまで分解し, 細胞間の接着力を失いやすい.そのためにA区分の多い野菜は軟化しやすい. 3) 加熱のさい軟化しにくい野菜は酢酸塩緩衝液抽出区分 (B区分) のペクチン質量が多く, またペクチン質総量中に占めるB区分の割合も多かった.B区分のペクチン質のエステル化度は約37~60%とA区分のそれと比べて低値であり, 塩化カルシウム添加による沈殿を起こした.そのため, エステル化していないガラクチュロン酸残基が偏って存在していることが考えられ, 中性溶液中で加熱してもトランスエリミネーションによる分解を起こしにくく, 野菜中に残存して野菜の硬さを維持していると考えられる.そのため, B区分のペクチン質の多い野菜は煮熟により軟化しにくい. 4) 大部分の野菜のペクチン質は35℃で抽出するAおよびB区分に抽出され, 最後にヘキサメタリン酸ナトリウム溶液中で, 90℃3.5時間加熱により抽出されるC区分は, 比較的少量であった.そのため本実験に用いた大部分の野菜の細胞壁のペクチン質は他の細胞壁物質と共有結合により結ばれているのでなく, 多価金属イオンの影響, その他により安定化, 不溶化していると考えられる.