そばだしをとるさいの口伝である「だしが帰る」という現象が, 溶出成分と関連があるかどうかを知るため, 60分まで加熱した厚削り鰹節だし汁について, 有機酸, アミノ酸, オリゴペプチド態アミノ酸, 5'-IMP, 5'-AMP, 無機質 (Ca, Mg) を経時的に定量した.その結果, だし汁中に溶出する成分は, 多くは徐々に濃度を高めていることが示され, ここでは「だしが帰る」現象を説明できなかった.だし汁中の 5'-IMP と 5'-AMP, 5'-IMP とMgの溶出量の間には, 高い相関がみられたが, 5'-IMP とCa溶出量の間にはみられなかったことから, 業者の「だしが帰る」という口伝に, もし溶出成分が関連があるとすれば, 「かえし」と馴染まない「帰っている」だし汁というのは, 溶出成分のバランスに問題があるのではないかと思われ, Caの味覚に対する影響が推察された。