ゴボウとダイコンの煮熟軟化性の相違の原因を究明するために, 脱イオン水および食塩水で煮熟し, 柔組織に存在する細胞壁の性質を, 光顕および電顕による観察とペクチン質の分画定量により比較検討した. (1) ゴボウを脱イオン水および食塩水で煮熟した場合, 食塩水のほうが早く軟化した.しかし木部と皮層部では煮熟軟化性が異なった.その原因の一つとして細胞の形や配列の相違が認められた.いずれの部位もダイコンより高い硬度を示した. (2) ゴボウの柔細胞壁はダイコンに比べて繊維成分に富み, 煮熟後もダイコンのような中層での顕著な分離や細胞壁全体の膨潤がおこりにくいために軟化しにくい. (3) ゴボウのAISとペクチン質の含有量は, 生も煮熟後もダイコンに比べて著しく大であった.いずれの試料も2%食塩水煮熟により水溶性ペクチンが増加し, 0.4%ヘキサメタリン酸ナトリウム可溶性ペクチンと0.05N塩酸可溶性ペクチンは減少する傾向が認められた.水煮では水溶性ペクチンのほかに0.4%ヘキサメタリン酸ナトリウム可溶性ペクチンの比率が若干増加する傾向にあった. (4) ゴボウでは, ダイコンより柔組織中の細胞壁密度が大であるが, さらに細胞壁自体の単位面積内にもペクチン質やAISをダイコンより多く含有していることが推定された. (5) ゴボウ, ダイコンのいずれにおいても柔細胞壁中のCa2+は中層部に多く分布し, Ca2+を除去すると中層での分離が顕著になることが観察された. (6) ゴボウとダイコンの柔細胞壁はポリガラツロナーゼ処理により著しく軟弱化した様相を呈したが, ダイコンの細胞間隙には消されにくい物質が残存した.