鶏肉の食味特性を生かした加熱方法を, 調理科学的見地より検索することを目的とし, 蒸し加熱によって骨なし肉, 骨つき肉の比較検討を行った結果, 次のような知見を得た. 1) 同じ条件で加熱した場合, 骨なしにくらべ骨つきのほうが低温で緩慢に加熱され, 試料の内部温度および加熱速度に差異がみられた. 2) かたさについては, 同じ条件で加熱した場合, 骨つきのほうが柔らかかった.骨ありでも最終内部温度や温度上昇速度を骨つきと同様にするとその差が認められなくなった. 3) 遠沈残渣量は骨つきが有意に少なく, 多汁性に富むことが示唆された. 4) うま味成分は, 骨なし, 骨つきに顕著な差はみられなかった. 5) 官能検査の結果, 骨つきのほうが有意に柔らかく, 多汁性に富み, 好まれた.これは理化学測定とよく対応した. 6) 組織の観察では, 20分加熱において骨なしの筋細胞の密度が高く, かたさと正の相関が認められた. 以上, 骨つきのほうが有意に好ましいとされ, 本実験で用いた鶏胸肉の大きさでは, 20分加熱で内部温度が約80℃になるまで緩慢に加熱することが望ましいという結果が得られた.