人間は家族のなかで生まれはぐくまれて社会化され大人になってゆくが, 近年, 家庭生活における育児機能の脆弱化が著しいことは, 各方面から指摘されているところである.本研究は, 1歳6ヵ月児健診要経過観察児のための「親子教室」に参加した幼児と母親を対象として, その変化のプロセスを追うことにより, 幼児期前期の発達段階にある子どもと母親に対する, 指導の役割とその効果について, 検討した. 「親子教室」参加によって, 母親には, 子どもの発達のみちすじについての正しい認識を導き, それは, (1) いまここに相対しているこの子の心情をともにわかち合う感受性を養うこと, (2) 子どもを理解する基本となる観察眼を養うこと, (3) 第1子と第2子の発達する姿の違い, 個性に対して謙虚に受けとめる目をもつこと, につながっていったと思われる. 人間発達の初期段階である幼児期前期の発達指導は, おのずと家庭での保育者である母親に対する指導・助言となるが, 彼女たちの多くは, 人間発達や保育について学習する機会を十分に与えられずに母親になっている.また一方では, 現代の女性の生き方の変化の大きな流れのなかで, 母親としての役割を果たさねばならぬことへの不安は大きい.これらのことから, 彼女たちは, 子育てはむずかしいもの, との思いを強くし, 自信を失ってゆく. 今日, 子どもの発達を援助するためには, 従来のような母親としての役割を強調することのみでは十分ではなく, 不安に揺れ動く母親を支え励ましつつ, 実践を通して子どもと直接かかわりふれ合って, 子どもとともに楽しむ姿勢の獲得に向けて援助していくことが重要であろう.