東アジア一帯に広く分布しているツルマメ (ダイズの野生種) はダイズの祖先種とみなされている.ツルマメは古代人の食糧として利用されていたと推定されるが, ダイズの育種材料としても重要であるので, 食物学の視点から基礎的知見を得るため, 煮沸処理したツルマメについて調理性やタンパク質の人工消化性を調べ, つぎの結果を得た. (1) ツルマメの吸水率は室温では低いが, 煮沸20分間で急激に吸水し, 40分後には終了した.ツルマメの硬さは煮沸5分で急激に低下し, 煮沸40分でさらに低下し可食状態になる. (2) 水, 1M塩化ナトリウム溶液あるいは1%SDSでタンパク質を抽出すると, 抽出量はいずれも煮沸時間の経過とともに減少するが, 1%SDS+2%MEで抽出すると煮沸時間の影響を受けない.煮沸によるタンパク質不溶化の原因は, 熱変性に基づくS-S結合の形成によると考えられる.ツルマメを煮沸してもアミノ酸は損失しない. (3) ツルマメのトリプシンインヒビター活性は煮沸20分で約12%に低下し, 40分で大部分が消失した. (4) ツルマメタンパク質の人工消化率は煮沸60分後ではダイズよりも低い.100メッシュ以上の脱脂粉末の消化率は煮沸時間の経過とともに増加するが, 30~60メッシュの未脱脂粉末では煮沸20分を経過すると減少した.その原因は煮沸中にツルマメ種皮から何らかの消化阻害物質が子葉に移行するためと推定される.