年齢60~79歳の老年者 (男性218名, 女性245名で構成され, 特別養護老人ホーム在園者100名, 在宅老人363名) を被検者として, 甘・酸・塩・苦味食品に対する嗜好調査を行い, 性別, 居住環境 (老人ホームと自宅) 別の老年者の食味嗜好度を平均値の差の検定から検討した.同様の嗜好調査を, 6~59歳の男女 (1,647名) に対しても行い, 年齢・性別に18群に分類して, おのおのの群の食味嗜好傾向を数量化理論第皿類によって分析し, 老年期の人々の食味嗜好傾向と他の群との類似と相異を調べた.さらに, ショ糖 (甘味), クエン酸 (酸味), 塩化ナトリウム (塩味) の等差濃度水溶液を検査試薬として, 老人ホーム在園者の味覚閾値を, 20歳女子学生と比較検討した.結果は, 次のようであった. (1) 酸・塩味食品に対しては, 老人ホーム在園者群が在宅老人群に比べて男女とも食味嗜好度は低かった. (2) 老年者の食味嗜好傾向は中年層女性群のそれと類似していたが, 若年層男女群および中年層男性群とは異なっていた. (3) 老年者の性別による食味嗜好傾向の相異は少なかった. (4) 老年者の嗜好食品群としては, 従来から日本で親しまれてきた甘味および塩味食品であった. (5) 老年者の味覚閾値は, 甘・酸・塩味いずれも高くなっていたが, おのおのの味覚の閾値変化のパターンは異なっていた.