鶏卵を用いた焙焼菓子特有の甘いスポンジケーキ香発生に有効な成分を検討するため, 今回は脂質成分に着目して焙焼テストを行った.脂質の構成脂肪酸による差異を検討するため, 鶏卵脂質成分を大豆脂質成分と比較した. Lys+GにSPCまたはTLGを加えて焙焼すると, EPCまたはETGを加えた場合と異なり, スポンジケーキ香を発生しなかった.TLGでは, 油揚げやきな粉の匂いを発生した.Lys+Gにケファリンを加えて加熱した場合, EPEでは魚臭を発生し, 高度不飽和脂肪酸によるものと考えられ, SPEではアンモニア臭を発生しエタノールアミンの分解で生成したものと考えられる.DPPEを用いるとアンモニア臭はあるが, スポンジケーキ香を発生した.脂質の構成脂肪酸は, 飽和度の高いほうがスポンジケーキ香発生に有効であった.トリグリセリドは, そのトリグリセリドを含む食品を特徴づける匂いの発生に最もよく関与すると考えられる.これら焙焼テストのヘッドスペースベーパーをGLCにより分析し大豆脂質成分は, 焙焼香気成分として, こうばしいピラジン類や, フラン類, ピラノン類の生成が少なく, カラメル香を有するシクロテンやスポンジケーキ香を有するフラネオールを生成しなかつたことが, 卵黄脂質成分と異なる点であると認められた.