前報で速度論的研究により, 3種の非イオン界面活性剤によるタンパク質分解酵素のカゼイン加水分解の活性上昇は, 活性剤ミセルと結合した酵素と基質の解離定数が, 小さくなるためであると推定した. 本報では, この推論を確かめるために, 前回用いた酵素2種とHLBが前回用いたものより広い範囲, 11.0~15.0にわたる非イオン界面活性剤3種を用いて, 活性剤存在下での酵素活性の速度論的研究を行った.その結果, それぞれの系での各活性剤のcmcより十分高い濃度領域で拮抗阻害の逆型に従う前回と同様の活性化が生じることを確認した. モデル低分子基質について同様の測定を行った結果, それぞれの系での活性剤のcmc以上で活性剤濃度が高くなるほど加水分解量が低下することがわかった.これは, この基質が活性剤のミセル内に取り込まれ, 酵素への接近が妨げられことによると推論した. カゼインの加水分解の初速の基質濃度, 活性剤濃度による変化を速度論的に解析した結果, 非イオン界面活性剤による酵素の活性上昇の機構は, 活性剤ミセルと結合した酵素と基質の解離定数が, 活性剤ミセルと結合していない酵素と基質のそれの約10~数10分の1になることによることを推定した.