本研究は, 同じアジア圏に位置し, 儒教文化圏に属しながらもそれぞれ独自な文化を築き, 社会経済的要因においてもいくつかの相違点がみられる日本・台湾・韓国の3力国においてそれぞれの国の大学生が老人に対してどのようなイメージを抱いているのか, そしてそのイメージはどのような要因によって規定されているのかを明らかにすることを目的として行われた. 結果は以下のとおりである. (1) 日本・台湾・韓国の大学生がもつ老人イメージは, 3力国ともにどちらかといえば否定的であり, とくに「地味な」, 「保守的」, 「非生産的」, 「遅い」などのイメージが強い. (2) 測定された老人イメージを因子分析したところ, 因子に現れた老人イメージの中で, 3カ国に共通するのは, 「活動・自立性」と「客観性」, 「協調性」に対する評価が低い点と, 「温和性」に対する評価が高い点である.すなわち, 日本・台湾・韓国の大学生は「非生産的で依存的であり, 協調性に欠けるが温和で優しい」というイメージを共通して抱いている. (3) 各国の老人イメージの特徴としては, 日本の場合「非生産的」, 「遅い」, 「弱々しい」などの世の中の進歩に取り残された老人の否定的なイメージが強いことがあげられる.韓国の学生の老人イメージの中からは, 「偉大性」因子が特徴的なものとして抽出され, 「立派で, 賢く, 偉大な存在」というイメージがあることが明らかにされた.台湾においては「不自由な-自由な」, 「内向的-外向的」, 「弱々しい-たくましい」などの項目に対する評価が日本や韓国に比べてかなり肯定的であり, 自己を積極的に表現していくようなイメージが読み取れる. (4) イメージを規定する要因を1元配置分散分析により検討したところ, 韓国においては「祖父母との同居経験」, 日本においては「祖父母との会話」, 「祖父母の思い出」の影響が強く認められ, 社会が近代化するにつれて, イメージを規定するものは規範的要因から個人的愛着による要因へと変化することが明らかになった. (5) 老人イメージを形成する重要な要因として3力国に共通してあげられるのは「老人や老人問題への関心」である.この要因は, 産業化の度合いや敬老思想の強弱にかかわりなく老人イメージを規定する重要な要因である. 今後, 台湾・韓国においても産業化, 都市化が急速に進むと思われる.現在両国の大学生の老人イメージを規定している規範的要因が, 今後の社会の変化の中でどのように保たれていくのか, あるいは日本と同様に個人的要因に取って代わられるのか, さらに注目していきたい.