クッキーのショートネスに関与する油脂の性質を明らかにするため, 既報に続いて, 融点をほぼ同じに調製した, 物理化学的性質の異なる油脂5種を用いて, 油脂と小麦粉成分 (でんぷんおよびグルテン) との親油性の点から検討を行った.同時に, これらの油脂で調製したドウおよびクッキーの油脂の分布状態や内部組織構造について, 走査型電子顕微鏡による観察を行なった. 1) でんぷんとの親油性は, 油脂の種類によって差は認められなかった. 2) グルテンとの親油性は, 油脂の種類によって顕著に異なり, 親油性と油脂のヨウ素価との間には有意の相関が認められた. 3) クッキーのみかけの破断エネルギー ( Y ) を目的変数とし, 油脂の固体脂指数 ( X 1), グルテンとの親油性 ( X 2) およびけん化価 ( X 3) を説明変数とした重回帰分析の結果, 寄与率99.6%, Y =0.126 X 1-12.123 X 2-0.018 X 3+5.640の重回帰式を得た.油脂の固体脂指数が小さく, グルテンとの親油性が強い油脂ほど, クッキーのみかけの破断エネルギーは小さくなる傾向が認められた.油脂のけん化価はみかけの破断エネルギーを一部修正する程度であるが無視できない要因であった. 4) 油脂はドウおよびクッキー中で連続相を形成しでんぷん粒を被覆しているが, その被覆程度は油脂の種類によって異なり, クッキーのショートネスをかなり反映すると推察した. 5) 液体油で調製したクッキーの, みかけの破断エネルギーが小さくなる要因の一つは, ドウで油脂が油滴として凝集し, クッキーの組織が多孔質となり脆化しやすいためと考えられる. 6) クッキーでの, グルテンによると考えられる繊維状組織の状態は, 用いる油脂の固体脂指数によって影響を受けた.ドウ成形が困難な, 固体脂指数25以上の油脂を用いると繊維状の組織は幅のある方向性を有したものになり, グルテンの形成が促進される傾向にあった.