環境温熱状態の変化に対する, 高齢者の適切な被服着用について解明することを目的として, 30℃, 55%RHの環境から20℃, 65%RHの環境へ, その後再び30℃, 55%RHの環境へ移動した時の, 過渡的な状態における衣内温湿度, 皮膚温, 舌下温および発汗量の変化について動的に測定するとともに温冷感, 湿潤感および快適感の感覚に対する調査を行った.結果は以下の通りである. (1) 30℃の環境では, 前額, 手背, 上腕, 足背の皮膚温が高齢者の方が低いが, 有意に低いのは, 足背のみである.20℃の環境に移動することにより, 前額, 手背, 上腕, 足背および平均皮膚温については, 高齢者が有意に低い値を示した.再び30℃の環境へ移動した後, 皮膚温は上昇するが, 20℃で高齢者と若年者の差が有意であった部位では, その差が回復せず, 同じ部位について高齢者の方が有意に低い. (2) 舌下温は, 高齢者の方が低く, 20℃の環境における低下も高齢者の方が大きい.また20℃から30℃の環境に移動すると舌下温は上昇するが, 若年者では移動25分後 (計測開始55分後) にはほぼ最初の温度に回復しているのに対し, 高齢者は移動後の回復が遅く, もとの温度に戻っていない. (3) 衣内各層の温度は, 年齢による有意差がない.衣内の最内層の温度の変化は, 第2層, 第3層よりも小さく, 衣服により形成された微気候により, 人体躯幹部は外界の気温の変動を直接受けず, 衣服は環境温熱条件の変動を小さくしていることがわかる.また, 年齢にかかわらず, 躯幹部の温度を一定に保つために衣服が大きな役割を示していることがわかる. (4) 局所発汗量は, 高齢者の方が有意に少ない. (5) 衣内湿度は局所発汗量の影響を受け, 高齢者の方が低い.