高齢者の温熱適応実態の中でもとりわけ住宅内における居住性と深くかかわり, その基礎的知見として位置付けられる着衣対応に焦点を絞り, 第1報の全国調査および岩手・兵庫における事例調査に基づく分析検討を行った.その結果明らかにされた高齢者の温熱対応としての着衣実態の特徴は以下に要約される. (1) 冬季において男女ともにシャツの重ね着傾向が顕著であり, 加齢に伴う重ね枚数の増加が認められる. (2) ランニングシャツ・ステテコ・スリップ・シュミーズのような保温性の低い下着において加齢に伴う着用率の減少が認められる. (3) 洋装用下着の着用率は都市部, 和装用下着は寒冷地農山村において高く, 和服に対する保温性評価に基づく着装の合理性を確認することができる. (4) 寒冷地の夏季における着衣量の調節は, 主として外衣の上衣によって行われ, その傾向は男性において顕著である.さらに着衣量の調節行為がなされる境界温度は一般的に22℃前後と推察される。 (5) 男性ではヤセ型ほど着衣量が増す傾向が認められ, 夏季・冬季間の着衣量の変化は総体的に女性より男性が大きい. (6) 夏季における着衣量の基準は, 寒冷地では起床時の環境温にあり, 冬季の場合には寒冷地は日中の住宅内非暖房室の室温, 寒冷地以外は日中の戸外温にあると推察される. (7) 就寝時の着衣では寒冷地における長袖着用が顕著であり, 高齢者独自の着装形態として農山村における和式寝まき利用とシャツ着用の対応関係が認められる. (8) 岩手の綿入れたんぜん, 愛知以西の敷用寝具としての毛布に, 地方独自の特異な利用形態が認められる. 以上, 高齢者が加齢に伴う温熱適応能力の低下を着衣対応により補う実態をいくつかの特徴として明らかにできたと考える.着衣との関連において住まいの問題点として指摘されるのは, 住宅設備・機器の変化に対応した着衣対応がなされていない点にあり, 今後高齢者の着装習慣を前提とした居住環境改善の提示がなされる必要があろう.