本研究は, 高齢者の住生活における夏季の防暑・冬季の防寒対応にみられる特徴を, 地区比較および年齢別・性別比較により把握することを目的とし次の知見を得た. (1) 夏季の防暑法については, 植樹を含めた日差しの遮断対応を優先させた上で「す戸」, 「打ち水」などの慣習的な住み方の工夫により対応する実態が捉えられ, 都市部と農山村における居住環境としての諸条件の相違が都市部における防暑対応の積極性とかかわることが確認された. さらに加齢に伴い各対応が減少する中にあって高齢者の対応は「植樹」に集約される傾向にあり, 自然環境は総合的防暑効果をもつ手段として位置づけられる. (2) 夏季の温度調節用機器としてのクーラー利用は前述同様都市部において高く, 夜間の利用は女性より男性に多い. さらに扇風機は80歳, クーラーは70歳を境に利用が減少する傾向が捉えられた. (3) 冬季の防寒法については, 寒冷地の「断熱材」, 「二重窓」などの構造的対応において気候の影響が際だち, その他の対応については都市部および農山村を軸とした住様式の地方性が住まい方に大きく影響していた. いずれの対応も加齢に伴い減少傾向を示した. (4) 冬季の暖房法は北海道のストーブによる終日全体暖房が特異であるほかは, 防寒法同様, 居住環境が暖房機器選択に大きく影響していた. また暖房開始時期は昼居室・寝室ともに加齢に伴い早まることが明らかであり, さらに男性より女性, 都市部より農山村において早まる傾向が認められた. (5) 夏季の涼しさに関する住み心地評価は, 新潟以北および農山村の奈良において高い. 一方冬季の暖かさ評価は, 防寒対策および暖房条件がよい北海道で最も高く, ついで農山村の奈良を除く東京以西が続く. (6) 本事例調査 (岩手・兵庫) では, 夏季・冬季ともに室温と居住性評価との相関は乏しく, 高齢者では快適か否かの判断は可能であっても, それ以上の感覚尺度の判断を求めた場合には判断がきわめて暖昧であり, 生活習慣に伴う慣れや加齢に伴う感覚鈍化の問題を指摘できる. 以上, 高齢者の住宅レベルにおける住み方対応では, 防暑対応は東京以西, 防寒対応は新潟以北において地区別特徴が顕著であり, 酷暑および厳寒による気候とのかかわりが認められた. しかし一方, 住まい方においては都市部・農山村の対比が鮮明に捉えられ, 地方性とかかわる生活習慣の根強さを捉えることができるとともに, 高齢者の居住改善においてこれらの問題をいかに位置づけるべきかは今後の課題として残される.