本研究は前三報までの分析内容をもとに, 高齢者の居住環境条件と温熱的対応についての加齢的, 季節的変化を主体に検討し, 以下の知見を得た. (1) 対象高齢者の基本的身体機能は老人ホーム居住者に比較して感覚機能面での低下が少なく, 平均的な在宅健康高齢者の機能水準にあった. (2) 住み心地が良いと感ずる温冷幅は加齢に伴い狭まる特徴を呈し, 住み心地の程度は身体抵抗力や睡眠満足度の多寡等との間に対応関係が成立した. また, 身体抵抗力の弱い者ほど外出行動は控えめとなり, 睡眠満足度は利尿者ほど低下傾向を呈する等の特徴を明らかにし, 温熱調節に配慮された良好な居住環境条件の提供が高齢者の日常生活面での活性化につながることを指摘した. (3) 就寝前の暖房器具の使用開始は, 高齢者群が昼間の開始に比較して半月程度の遅れであったのに対して, 若年者群での使用時期が著しく遅れた背景要因を考察し, 高齢者での日常的な健康管理に対する関心の高さや生活習慣の固定化, 感覚能の鈍化等を推察した. (4) 暑くも寒くもないと感ずる中性温度は, 冬季は夏季に比較して10℃前後も低値に留まり, この温冷感覚の差は着衣量の多寡や屋内外の気温差等, 生活習慣や居住環境条件の違いが影響を与えていたと解釈した. (5) 寒さへの工夫については, 若年者群が衣類を主体とした受動的な姿勢であったのに対して, 高齢者群は身体活動等による能動的な対応姿勢が見受けられた. 以上の諸点より, 老化に伴う身体機能の低下に配慮された居住環境の条件整備を進めて行くことの重要性が指摘される. しかし現在の室温調節法を一つ例示しても, 依然として部分的な冷暖房方法を主体とした対応であると言える. このために特に冬季での室間温度差は居住者の循環調節機能面等へ過大な負担を強いることも多く, 室間温度差を狭める建築学的な工夫が大切とされる. また温熱刺激に対しては, 老化に伴う感受性の遅延傾向による室温調節行動に操作性の欠如も予想されており, 自動温度調節器等の技術的支援も望まれる. 本論文を含めた一連の報告は,昭和62年度及び63年度の文部省科学研究費[総合研究 (A) 課題番号 : 62304058]の助成を受けた.