野菜の煮熟軟化に及ぼす各種塩類の影響を調べ, その煮熟軟化の機構を光学顕微鏡観察と急速凍結ディープエッチング法による透過型電子顕微鏡観察により明らかにすることを目的として, ダイコン根部の木部柔組織から切り出した円盤を, 9種類の塩類 (Na+, Mg2+およびCa2+のそれぞれ酢酸塩, 硫酸塩および塩化物) の0.2M溶液で30分煮熟した.煮熟後の円盤の硬さは陽イオン, 陰イオンのいずれにも影響を受け, 硬さの程度の大なものから順に記すと, Ca2+>Mg2+>Na+および塩化物>硫酸塩>酢酸塩であった.二種の塩類を混合して煮熟した場合, 溶液中にCa2+とCl-が存在すると硬さが大となった.顕微鏡観察によると, 軟化の著しい試料では, 細胞壁が中層で分離すると共に, 第一次壁にあってセルロースミクロフィブリル間を結着するように働いている顆粒状物質が顕著に減少し, 第一次壁内にも隙間が生じていた.しかし, CaCl2添加煮熟を行った試料では, 第一次壁内に顆粒状物質が残存し, 細胞壁の強度の低下を抑制していた.Ca2+とMg2+はいずれも2価のイオンであるが, 細胞壁に対しては異なる作用を示した.