「青ケ島」をフィールドにして, 現時点の伝統食の変容について検討したところ以下の知見が得られた. (1) 儀礼食 (儀礼に食される伝統食) は伝統儀礼に不可欠なメニューとして, ある程度存続している。また, 交通網の発達および電化に伴う冷凍・冷蔵庫の普及によって, 昔は一年の中で決まった時期にしか食することができなかったものが, 一年中食することができるようになり, その結果, 儀礼食に加えられたものもあった. (2) 儀礼には食されない伝統食は, 消失しているものもあったが, 主食から副食になるなど位置づけが変容しながら存続しているものもあった.そして, その消失と存続をわける要因は「おいしさ」にあるようであった. (3) 伝統食の一部が「おいしくない」と評価されるようになったのは, 主食がイモから米に変わったためと推察された. (4) 存続している伝統食には, 既成の調味料を利用するなどの材料の変化がみられるものもあった. (5) 40代以上の女性の大半は島内出身であるが, 20~30代では島外出身の嫁が多い.このことが, 今後, 儀礼に食されない伝統食の消失に影響を及ぼしていくものと推察された. (6) 青ケ島においては儀礼食は儀礼を行う家と同じコーチに属する女達が共同で作るため, 島外出身の嫁もそこで島内出身者達が調理しているのを見て覚えることができる.したがって, 儀礼食は存続しやすいことが推察された.