以上, 自転車走行時に着装衣服が人体に与える影響を, 生体負担の観点からとらえた.これはエルゴメーターを使用して作業時の酸素消費量の測定から生体側の仕事と, それによるエルゴメーター作業の仕事の比である効率を算定して比較する方法である.この効率は作業動作を拘束するものがあれば低下することに着目して, 下半身用衣服をはき替えたときの効率を調べ, それより自転車走行に適する着衣を選定しようとするものである.おもな結果は次のようである. (1) エルゴメーターによる人間の作業効率の測定から, わずかな運動の拘束でも効率低下は認められ, この方法は衣服の影響を調べる有力な手法と考えられる. (2) 自転車ペダルの回転運動の拘束原因を着装した下半身用衣服の影響ととらえ, 衣服の種類による作業効率の低下を調べたところ明らかな差異が認められた. (3) 以上の結果から, 自転車を漕ぎやすい下半身用衣服は, キュロットスカートを最適として, スラックス, ジーンズ, およびセミタイトスカートの順となり, この結論は経験として感じていたことと同様になり, それを作業効率の観点から定量的に表すことができた. (4) エルゴメーターによる効率測定で, 同時に筋電図の測定も行ったが, その結果によれば, データに個人差が大きく現れ, ただ1名のみが作業効率と同じ傾向を示し, 他は十分な相関が認められなかった.実際に, 筋電図の測定には接続電線のゆれとか, 電極と衣服の摩擦による雑音など, 外部の影響を受けやすいので測定困難な問題がある.それに比較して, 提案する作業効率による方法は, 人体への拘束を量的に知る一つの有効な万法であると捉えられた.