生ウメおよび水酸化カルシウムを添加して漬け込んだ塩蔵梅を, 従来の走査型電子顕微鏡と低真空走査型電子顕微鏡を用いて観察した.低真空走査型電子顕微鏡観察時には, あわせてエネルギー分散型X線分光器による元素分析も行った. 高カルシウム区 (原料生ウメに対して0.6%水酸化カルシウム添加) の細胞壁の構造は, 生ウメのものとほとんど変わらなかった, 一方, 低カルシウム区 (水酸化カルシウム濃度0.15%) の細胞壁は波状になり, 細胞自体が萎縮していた.これらの結果は, 従来の走査型電子顕微鏡と低真空走査型電子顕微鏡の両方において観察された. 低真空走査型電子顕微鏡観察においてのみ, 果皮表面に結晶物質が観察された.これらの物質は, 従来の走査型電子顕微鏡観察では, 固定処理中に固定液に溶解してしまったと推測された.細胞内に観察された高カルシウム区の結晶物質の見え方には, 従来の走査型電子顕微鏡と低真空走杳型電子顕微鏡では異なっていることが認められた.従来の走査型電子顕微鏡では結晶物質は球状であったのに対し, 低真空走査型電子顕微鏡では細胞壁の内側に薄く張りついた状態で観察された. 元素分析の結果, 高カルシウム区ではカルシウムが果皮から果肉内部まで組織全体に分布していることが認められた.低カルシウム区では, 果肉内部のカルシウム含量は果皮部の40%であった. 低真空走査型電子顕微鏡は, 観察時に試料の変性を防ぐ工夫が必要ではあるものの, 梅組織の観察および細胞内と果皮表面の結晶物質の観察, ならびに元素分析を行うのに非常に有効であった.