シュー生地の第一加熱後の糊状ペーストへの卵液混入攪拌時の温度が膨化に及ぼす影響を, 材料油脂としてバターとサラダ油を用いて検討した.攪拌時の生地温度を15・20・35・45・60・70℃に調整して混入・攪拌を行い, 生地の気泡状態や成分の混合状態, 焙焼途中の膨化の経過, 熱凝固ゲルの物性, 焼き上げたシューの組織状態などを比較した.その結果は次のとおりである. (1) 生地の気泡含量は生地温度に依存し, 高温ほど気泡含量が少ないため焙焼時の水蒸気発生量が少なくなり膨化が劣った.さらに70℃攪拌で卵が加熱変性を起こすと成分の乳化状態が壊れて油が分離し, 膨化不能となった. (2) 膨化体積が最大となるのは, サラダ油使用生地では15℃攪拌, バター使用生地では35℃攪拌の場合であった.20℃・15℃で攪拌したバター使用生地は, 気泡含量は多いにもかかわらず, 焙焼時には水蒸気発生量に応じた体積の増加が得られなかった.その理由は融点以下の温度で固体化したバターが生地成分の分散を妨げたため, 焙焼により発生した水蒸気が不均質な組織の空隙から散逸したことによると考えられた.なお, 焼き上げたシューの組織観察でも生地が均一に伸展せず, 水蒸気の包含能力が劣ることが裏付けられた. (3) 生地の加熱凝固ゲルの破断エネルギーは製品の体積と正相関を示し, 膨化力の大きい生地は, 焙焼時に生じる水蒸気圧に対して伸展性が大きく破れにくいものと推察された.