本研究は, 個としてのアイデンティティと母親アイデンティティの統合・葛藤という視点から, 育児期の女性のアイデンティティ様態と家族関係の関連性について検討することを目的とした. 3~5歳の子供をもつ142名の母親を対象に質問紙調査を行った.対象者はアイデンティティ尺度 (Rasmussenと母性理念質問紙 (花沢) の得点にもとついて, I統合型, II伝統的母親型, III独立的母親型, IV未熟型の4タイプに分類された. 主要な結果は以下のとおりである. (1) I統合型の母親は, IV未熟型の母親よりも家庭生活によく満足しており, II伝統的母親型の母親よりも夫からよく理解・受容されていると認知していた. (2) 家族とのかかわり方や家族の認知のし方は, 4タイプ問で著しい相違が見られた.1統合型が, 夫を最も肯定的に受けとめており, 家族に対する積極的関与が最もよくできていた.IV未熟型は, 夫・子供に対して拒否的であったり, 積極的関与が不十分である者が最も多かった. これらの結果を総合して, 夫との肯定的な関係や家族に対する積極的関与は, 個としてのアイデンティティと母親としてのアイデンティティの統合を支えるものであることが示唆された.