本研究は, ファミリーイベントと生活資源との関係に着目し, どのようなファミリーイベントがリスクとして認識され, またその準備が進められているかについて, 実態調査をもとに検討したものである.調査結果から次の二点が明らかになった. 第一点として, リスクに対する認識と準備の間にはギャップがみられることが明らかとなった.そのギャップとは以下のようであった. (1) 「高額耐久消費財購入」「住宅購入」「子供の教育」という “確実性が高く, 個人・家族の価値判断に基づいて設計できるイベント” については, それらにより, 生活経営上に実害が発生するとはあまり考えられておらず, リスクの大きなイベントとしてはとらえられないであろう.それにもかかわらず, 準備をみると「話し合い」「情報収集」「預貯金」等, 総合的に考えられており, 日頃から家族のコミュニケーションの中で設計されている. (2) 「事故・病気」「火災」「転職・失職」という “不測のイベント” については, それらの発生により, ほとんどの生活資源が減少して, 生活経営上に実害が生じることが認められている.しかしその一方で, それらのイベントに対する準備については「保険への加入」による経済的資源が考えられているものの, 「家族での話し合い」や「情報収集」などはなされておらず, 各生活資源の総合的な準備は考えられていない.すなわち, 時間・空間・人間関係等も含めた資源の確保がなされていないということである. 偶発性の高いイベントに, 通常からすべての資源を十分に準備することは不可能である.そのため, 対処法として「保険への加入」によってその準備が考えられてきたのである.しかし不測のイベントの発生により被る不利益は金銭面だけではない.今後, 社会生活環境が変化し続けるなかで多種多様なリスクに対応するためには, 「家族での話し合い」や「情報収集」など, 日頃の生活の中で可能な資源の準備を考えていく必要があろう. 第二点として, 高齢社会問題とかかわるイベントについては, リスクに対する認識も準備もなされていないことが明らかとなった. 「老親の世話や介護」「定年退職と老後の生活」については, 他のイベントと比較すると, 実害が発生するという認識はそれほど高くなく, またそのイベントに対する準備もほとんど考えられていないことが明らかになった.しかし, 高齢化をはじめ, 社会環境の変化により新たなリスクはますます増加していく (西久保1995;藤田1997).公的年金の不足等をはじめとした収入減や身体的機能の低下等による自立生活の難しさなど, 長生き=リスクの増加とも考えられるため, 従来はリスクとして認識することのあまりなかった「長寿」「介護」等についても, 今後はリスクとして認識し, また準備も考えることが必要である. 以上, 従来の生活管理体制が通用しない社会環境の中で, 自らの目標に向かって将来もゆとりある生活を送るためには, 短期的なイベントだけでなく, 切迫する高齢社会等も考慮した中期的・長期的な “生涯設計” を考えることが必要である.また, それらの発生により, どのような実害が発生すると予測され, そのためにはどのような資源をどう準備すべきかについて, 総合的に計画していくことが重要といえるのである.