在宅酸素療法は, 厚生省の医療者用の「在宅医療法ガイドライン」 (芳賀1991) に示されているように, 患者のQOLを高めることをその意義として導入されている療養方法である.本研究は, 国立刀根山病院に通う在宅酸素療法患者とその家族を対象に, この方法の導入により, 患者や家族の意識や生活にどのような変化があったかを知ることを目的として行われた.得られた結果は以下のとおりである. (1) 療養場所について (1) 家族形態に関わらず, 患者, 家族とも在宅療養の希望が多い. (2) 療養場所の希望について, 患者と家族の間で異なる例のほとんどは患者 : 「在宅」, 家族 : 「病院」である. (3) 患者・家族の在宅療養を希望する理由は, 患者の年齢, ADL値のいずれとも相関がみられなかった. (4) 患者の在宅療養を希望する理由は, 「自由があるから」「人間関係に気をつかわなくてよい」「気分が違う」といった個人的な理由で, 家族の有無にかかわらず共通であった.一方, 家族は「患者の希望」による在宅希望が多い. (5) 病院療養希望の理由は, 患者・家族とも「安心だから」が主であるが, その他の理由は住環境, 介護環境の悪さによるものであった. (2) 酸素濃縮機器について (1) 酸素濃縮機器の導入には, 希望をもてる場合と落ち込ませる場合の2面があり, 実際の使用においても, 負担を感じない者と感じる者に2分されている (2) 酸素濃縮機器の導入によって, 患者は「やりたいことを諦めた」者が多かったが, 家族の心情は「特に変化がない」者が多い. (3) 酸素濃縮機器に負担を感じる者は, そうでない者に比べ, 導入前後で, 地位, 収入, 競争面における価値観が大きく変化していた. (3) 酸素濃縮機器導入後の生活の変化 (1) HOT導入後, 患者は外出が減りテレビをみることが増えるといった「屋内生活」に変化した. (2) 患者の「屋内生活」への変化に伴い, 介護に当たる家族も患者中心の「屋内生活」へと変化した. (3) 主に介護に当たる家族は「家庭での仕事」が増え, 睡眠が減り, 「疲れが残ること」が増えたが, 他の家族の在宅時間は増えていない. 在宅酸素療法は, 家族形態に関わらず多くの患者が希望する住みなれた環境での療養を可能にした.しかし, 酸素濃縮機器使用によって, やりたいことをあきらめたり, 散歩などの外出が減少したりして, それまでの生活を縮小した者も多いことが明らかになった. 酸素機器の導入により, 身体的な意味でのQOLは高まったと考えられるが, しかし酸素を吸ったからといってすぐに楽になるわけでもないため, その効果を実感できないまま, 負担感だけ残っている場合もある.これらのことから, 酸素濃縮機器は小さくなったとはいえ, 慢性呼吸不全という病気の重さ, 機械の重さや格好の悪さといった問題もあって, 失われた機能を補うために軽く利用できる道具にはまだなっていないことがわかる.本研究では, 慢性呼吸不全患者の酸素機器利用のありかたには, それを利用する対象者の価値観などが関連することが示唆されたが, 酸素を吸って予後をよくするといわれても, そこまでして長生きしたくない, と答えたものもあり, 酸素濃縮機器が本来の意図で利用されるためには, 患者の価値観や生活歴も含めて導入の是非および時期などの判断をすることが欠かせないと考える. 医療技術の発達とともに様々な機能を補う機器の開発がなされてきているが, それらの機器をより有効に利用し, 使用者の生活をより生きがいのあるものへと高めるためには, このような機器の整備, 開発だけでなく, 受け入れる側の人間の価値観や状況などを含めた研究や教育, 指導を行うことがより必要と考えられる.