先に述べた諸条件のもとで算定した結果を要約すると, 以下のとおりになる. (1) 妻の生涯における家庭内労働の経済的評価は専業主婦が1億18,722千円となり, 再パートの妻は専業主婦の0.89倍, 再常勤就労の妻は0, 75倍, 常勤の妻は0.68倍となった. (2) 夫の生涯における家庭内労働の経済的評価は専業主婦の夫が7,173千円となり, 妻再パートの夫は専業主婦の夫の1.04倍, 妻再常勤の夫は1.16倍, 常勤の夫は1.17倍となった.また, 夫の生涯における家庭内労働の経済的評価は妻の6~10%であった. (3) 夫婦の生涯における家庭内労働の経済的評価は, 大卒・専業主婦世帯が1億25,734千円となり, 妻再パート世帯は専業主婦世帯の0.90倍, 妻再常勤世帯は0.77倍, 妻常勤世帯は0.71倍となった. (4) 新しい生計費概念に基づく生涯収入で大卒夫婦の収入格差を示すと, 妻再パート世帯は専業主婦世帯の1.02倍, 妻再常勤世帯は1.28倍, 妻常勤世帯が1.34倍となり, 賃金・年金の格差に比べて縮小する結果となった. (5) 専業主婦世帯と常勤世帯の生涯収入における格差は賃金・年金収入より, 新しい生計費概念に基づく生涯収入で示す方が3分の1から4分の1に大幅に縮小する結果となった. (6) 新しい生計費概念に基づく生涯収入では, 大卒・妻常勤世帯において, 夫と妻の生涯収入が逆転し, 2,508千円多くなった. (7) 新しい生計費概念に基づく生涯収入への妻と夫の貢献度は, 大卒夫婦の場合, 専業主婦世帯が30 対70, 妻常勤世帯が50対50となった. 以上の結果より, 本研究では生涯収入への夫婦の貢献度について, 新しい生計費概念に基づき妻の就労形態別に明らかにすることができた.これらの結果は従来の賃金・年金等の金銭収入のみを生計費として捉えた場合の夫婦の貢献度とは著しく異なることを示すものである.すなわち, これらの試算結果が示すように, 現在の家庭生活は生命の再生産において必要とされる労働のかなりの部分が妻によって担われているにもかかわらず, それを前提とした秩序がみられないという問題がある.しかも, その労働量を金銭で表示するとき, 社会的労働における賃金格差が妻の貢献を著しく倭小化し, 全体として妻の貢献を小さなものとして示す結果をもたらしているのである. なお, 本研究では妻の就労形態別の家庭内労働の生産性を同一のものとして試算を行ったが, それによって共働き世帯における妻の貢献度が実態より小さく表されていることについても指摘しておく必要があろう.本論では新しい生計費概念を用いて生活における夫婦の貢献度を現実の実態を示す数値に基づいて, 現在の生活にみられる問題点を指摘し, これからの生活のありかたについては, この結果に基づいて論じていく必要があると思われる. 本研究の一部は平成7年度家計経済研究所の助成によるものであり, 日本家政学会第45回大会において発表を行っている.