中京大都市圏内の高齢者世帯の移動では, とくに名古屋市と周辺市町村との転出, 転入の移動が, 高齢者の生活環境面の変化で重要な意味をもっている.その背景には, 高齢者世帯を取り巻く住宅, 住環境, 家族関係などが, 地域によって大きく異なっていることがある.とりわけ, 名古屋市内では周辺市町村より立地の利便性は高いが, 住宅の水準は低い.そのため, 三世代世帯の同居は難しく (三世代世帯の減少→高齢者世帯の小規模化), それが高齢者世帯の生活スタイル, 住宅・住環境のニーズ, 家族との居住立地関係などにも影響してくる.また, 高齢者世帯自身が単独で暮らす自立志向も高まってきており, こうしたことが, 移動に伴う家族構成の変化と関連し, 同時に高齢者世帯の住宅, 居住立地, 生活環境の選択面にも大きな影響を及ぼす関係にある. 具体的な分析結果は, 次のように要約される. (1) 転出世帯のなかに高齢者世帯が比較的多く含まれており, その家族型は, 三世代などの多人数世帯が中心である.高齢者のみ世帯など小人数世帯の移動は, 市内での転居が多く, 転出するケースは少ない.これには, 市内の厳しい住宅事情から, 必然的に小規模世帯が増加する関係が介在している. 高齢者世帯自体の移動, 高齢者世帯と非高齢者世帯が同居や別居に至る移動は, 移動パターン別によって大きく異なる.それらの典型的, 代表的な移動形態は, 転居では移動類型A (不変型の移動), 転出では移動類型B (同居型の移動) とA (不変型の移動), 転入では移動類型C (別居型の移動) に分かれる. (2) 単身・夫婦のみの小規模高齢者世帯は, 高齢者世帯自体の移動 (移動類型A) によって多く出現する.この世帯は, 外部から住生活面の支援を要する可能性の高い世帯でもあるが, 転居や転入を通して市内に集積する傾向にある. 移動後に取り残される高齢者世帯は, どの移動パターンでも非高齢者世帯が高齢者世帯から分離することによって生じる移動 (移動類型C) に多く, また単身・夫婦のみの小規模高齢者世帯の多くも, こうした移動後に取り残される形で析出している. (3) 移動理由の構成内容は, 移動パターンによって大きく異なる.各移動パターンの典型的な移動形態に則して整理すると, 転居 (典型的な移動形態 : 移動類型A, 以下同じ表示) では, 住宅上の理由以外にも広範囲な理由が散見され, 移動の発生要因が多様である.転出 (移動類型B, A) では, 高齢者との同居と併せて住宅改善を目的に転出する世帯が多い.転入 (移動類型C) では, 結婚の理由以外にも立地の利便性の要因が市内への転入に寄与している. (4) 移動前後の住宅所有関係の変化は, 移動パターンによって異なる.転居では, 民営アパート, マンション, 公団・公社の増加幅が大きいほか, 移動後の高齢者世帯の居住では公的借家の果たす役割が大きい.移動後の住宅として, 転出では持家, 親の家, 転入では民営アパートがそれぞれ大きな比重を占める. 現住宅の選択理由は, 転居や転出では全体に住宅規模や経済性を重視する傾向にある.その一方, 転居を通じて市内で住宅規模や住居費用の改善を図ることは難しい状況にある.転入では, 住宅規模や経済性以外にも立地の利便性を重視する傾向が強く, 実際に通勤・通学時間は大幅に改善されている (たとえ移動後に住宅規模水準の低下, 住居費負担の増加を招いても).また, 転居や転入の高齢者世帯移動では, 住宅規模水準が低下しても移動が発現し, 住宅改善以外に多様な移動理由が関係している. (5) 転居世帯や転入世帯の名古屋市内での定住希望は全般的に高いが, このうち転入世帯の定住可能性は概して低い.転出世帯では, 名古屋市内での残留意向が高く, 定住条件さえ具備されれば市内に留まる世帯は潜在的に多い.しかし, いったん市外に転出した後は, 経済的・社会的事情や心理的変化などによって帰還希望が大きく減少する.ただし, 移動類型C の世帯だけ名古屋市内への帰還の可能性が高く, これには, 血縁, 地縁関係が関連している. 最後に, 第1, 2報を通して, 住居移動からみた中京大都市圏の高齢者世帯の住生活面の課題について総括的に列挙しておくことにする.