『経済小学家政要旨』は, 明治初期に最も普及した翻訳家政書である.本研究の目的は, その原典ハスケル夫人『主婦百科』とビーチャーの家政書3冊との比較を通して, わが国の科学としての家政学の出発点ともいうべき『主婦百科』の特質を解明することにある.ハスケル夫人『主婦百科』は, ビーチャーの家政書の二つの系統の中間の性質を有している.両者はともに, 家政学の体系化と科学化の二つの傾向がみられる.しかし『主婦百科』は, ビーチャーに比べて, 家政のあらゆる領域を貫く原理的な考え方が希薄である.わが国の家政学の領域構成は, わが国で受容可能な家政理念や内容を選択・訳出した翻訳者永峯秀樹によるところが大きい.産業革命期のアメリカにおける生活変化に対応するために, 主婦を対象として刊行されたハスケル夫人『主婦百科』の家政理念は, やがてわが国でも出現する中流階級の主婦の育成に備えるという時代の先取り的な役割を果たしたと考えられる.