本報告は, 生活経営における生涯設計のあり方を追究するという立場から, そこにみられるリスクに対する認識の実態を明らかにしようとするものである.すなわち, 生涯の短期的・中期的・長期的なイベントについて, 人的・対人的・時間的・空間的・経済的な資源に損害が発生する危険性の全体をリスクとしてとらえた上で, リスク認識の大きさを決定づけている世帯属性が何であるかを把握するとともに, 個人・家族のおかれた状況の違いが, 生涯のリスクに対する認識にどのような影響を及ぼしているかについて明確にすることを目的とした. 分析の結果, 生涯のイベントの全体において, 世帯のリスク認識に最も大きな影響を及ぼしているのは, 所得水準であり, 所得が低い世帯ほどリスク認識が高く, 所得が高い世帯ほどリスク認識が低いことが明らかとなった.所得水準に次いで, 生涯のリスク認識のほぼ全体にわたって大きな影響を及ぼしているのは, 生活の価値観であった.総じて安定重視の世帯ではリスク認識が高く, 満足重視の世帯ではリスク認識が低いことが理解された.このほかでは, 世帯主の年齢がリスク認識に対して相対的に大きい影響力を示しており, 総じて短期的な不測のイベントについては世帯主年齢の高い世帯 (50歳代) でリスク認識が低く, 中長期的な予測可能なイベントについては若い世帯でリスク認識が低いという傾向がみられた.また, 世帯主の職業の違いは火災や自然災害, 自家用車や高級耐久消費財購入に伴うリスク認識に対して, 住宅保有状況の違いは転職や失職, 定年退職と老後に伴うリスク認識に対して, 有力な説明要因となることがわかった. これらの研究成果をとおして, 個人・家族が, 自らのおかれた状況に応じて, ファミリーリスクに対する認識を高めていこうとする場合の具体的な課題が明確となり, さらに諸課題の全体的把握によって, 今後の生活経営論やリスクマネジメント教育のより効果的な展開に資することを期待するものである. なお, ファミリーリスクに対する「準備」についても, 同様の視点に基づく分析を実施しているので, 別途, 報告をする予定である.