指先を用いる作業を行ううえで, 作業能率の低下をもたらさないで済む爪の伸びとはどのくらいなのかを求めることを目的として, つけ爪を用いて爪の伸びを4水準 (指先点から0mm, 2mm, 4mm, 6mm) 設定し, 4項目 (並縫い, 糸結び, 字を書く, 棒挿し) について実験を行い, 作業能率の変化を検討した.同時に, 簡単な官能調査も行った.被験者は, 日頃は爪を伸ばしていない成人女子4名である.結果は次のとおりである. (1) 「並縫い」では, 爪の伸び2mmまでは爪の影響はあまりないが, 4mm以上になると作業能率が低下する.「糸結び」では, 爪の伸びが2mm以上になると作業能率は明らかに低下する.「字を書く」では, 4mm以上になると手・腕に疲労をもたらす等の弊害が明らかに生じる.「棒挿し」では, 爪の伸び6mmで作業能率は明らかに低下する. (2) 「爪の伸び」と「被験者」を2因子とした分散分析の結果, 「爪の伸び」で有意性が認められたのは「並縫い」「糸結び」「棒挿し」であり, 「被験者」で有意性が認められたのは「並縫い」「字を書く」「棒挿し」であった.多重比較の結果, 爪の伸び0mmと有意に作業能率に差が生じるのは「糸結び」では2mmから, 「並縫い」「棒挿し」では4mmからであった. (3) (1) および (2) から, 学生が講義の授業を受ける場合には, 爪の伸びは2mm以下が望ましい.被服を造形する実習授業を受ける場合には, 2mmでは伸ばしすぎで0mmが望ましい.爪の伸び2mmは, おしゃれ心や女心として魅力を感じる長さに匹敵する. (4) 若年者では, 伸びた爪を上手に利用して作業を行おうとする姿勢が見られること等を考慮すると, 被服領域の教員としては爪を伸ばすことを否定するだけではなく, 正しく手作業を行うように教育することを目指した爪の伸ばし方の指導が必要だと考える.