人工的なコラゲナーゼ処理を行うことにより, イカ筋肉の冷蔵中における軟化現象に対するコラーゲンの関与を調べた. ヤリイカ外套膜より分画したコラーゲンを濃度の異なる細菌コラゲナーゼ溶液 (酵素 : 基質=1 : 10, 1 : 100, 1 : 1,000, 5℃) に浸漬し, その変化をSDS電気泳動法により調べたところ, コラゲナーゼの濃度が高い場合ほどコラーゲンの分解が促進された.この結果は, 5℃という低温下であっても長時間反応により細菌コラゲナーゼがコラーゲンを分解し得ることを示した. 次にヤリイカの外套膜を濃度の異なるコラゲナーゼ溶液 (0.1, 1, 10mg/ml) に浸漬し, その影響を対照試料 (0mg/ml) と比較して検討した.その結果, コラゲナーゼを含む溶液に浸した肉片の勇断力は対照試料に比べ低い値を示し, 特に10mg/ml区において最も低かった.光学顕微鏡で構造を比較すると, コラゲナーゼ処理3時間後で早くも10mg/ml区の筋肉において細胞間隙が認められた.他の試験区でも24時間後には間隙が認められたが, 10mg/ml区において最も多数の間隙が生じていた.透過型電子顕微鏡で観察すると, 3時間および24時間後における細胞間隙の数・大きさの違いがより明確に認められた. 以上の結果は, コラゲナーゼの筋肉内部への浸透によりコラーゲンが分解され, 結果的に軟化現象が促進されたことを示しており, 言い換えれば, コラーゲンが冷蔵中の軟化現象に深く関与していることを示すものである.