炊飯において硬水が飯の硬さに及ぼす影響およびその要因について研究した.米は初霜を用い, 炊き水には0.05M乳酸カルシウム溶液を用いて電気炊飯器で炊き, 飯粒の硬さの測定, 飯粒の膨潤, 胚乳細胞の大きさの測定を行い, 添加したカルシウムの分布を調べ, 普通飯粒との比較を行ってその原因を組織形態学的に明らかにしようとした.得られた結果は次の通りである. (1) テクスチュロメーター測定による飯粒の硬さは, 乳酸カルシウムを含む液で炊いたGa飯粒が, 普通飯粒よりも硬い. (2) Ga飯粒の膨潤度は普通飯粒と比較すると低い. (3) 顕微鏡下で観察・測定したGa飯の胚乳細胞の断面積は普通飯のそれより小さいことが認められた. (4) 普通飯粒の横断面の切片において, カルシウムイオンを蛍光色素オレゴングリーンで染色すると, 原料米に含有されているカルシウムは主に飯粒表層部の胚乳細胞壁に多く存在し, 飯粒中心部にむかっては少ない.カルシウムが存在している同部位にたんぱく質, ペクチン性物質が存在しているのがみられた.Ca飯粒では, 添加したカルシウムイオンが, たんぱく質, ペクチン性物質が多く存在する飯粒表層部の胚乳細胞壁に局在していた.特に背側部の胚乳細胞壁およびでんぷん複粒の周囲に局在し, この背側部の胚乳細胞は他の部分よりも膨潤が起きにくく, また, 普通飯よりも膨潤していないことが観察された. 以上のことから硬水の炊飯過程における米粒の膨潤阻害の一因には, カルシウムイオンによる胚乳細胞内および胚乳細胞壁のたんぱく質とペクチン性物質の変化が関与していると推察できる.