本研究では, 4段階の濃度の異なる重曹溶液 (0mol/ l 濃度として蒸留水, 0.1mol/ l , 0.2mol/ l , 0.4mol/ l ) に浸漬することにより, 軟化処理を施した食肉の硬さと食べ易さの関係について検討を行った. (1) 牛肉, 豚肉ともに, 浸漬する重曹溶液濃度が高くなるに従い, 生肉に対する試料肉の重量減少率が小さくなった.このことより, 食肉を浸漬する重曹溶液濃度が高くなるに従い, 水和が増し保水性が増加すると推測される.また, 重曹濃度が高くなるに従い, 牛肉, 豚肉ともに加熱処理後の肉色が暗くなり, ことに, 牛肉において, その傾向が顕著であった. (2) 肉を浸漬する重曹濃度が高くなるに従い, 軟らかくなり, ことに0.2mol/ l および0.4mol/ l 濃度の重曹溶液に浸漬した試料肉が0 mol/ l 試料肉すなわち蒸留水浸漬肉に比べ, 有意に軟らかいことが認められた. (3) 重曹溶液濃度が高く, 見かけの硬さが軟らかい試料肉は牛肉および豚肉ともに, 咀嚼時に軟らかく, 咀嚼後に形成された肉食塊は飲み込み易く, また口中の残留物も少ないことが認められ, 食べ易い肉であることが示唆された. (4) 試料肉の見かけの硬さは圧縮速度が遅くなるに従い, 硬くなる傾向を示した.このことより, 咀嚼速度が遅くなる傾向にある中高齢者群や義歯装着者群は低年齢群に比べ, 肉を咀嚼する場合, より多くの力を要することが推測される.このことからも, 軟らかく, 噛み切り易く, 咀嚼し易い肉の開発が重要であるといえる. 本研究は基礎的研究であるため高齢者や義歯装着者をパネリストとして官能評価を行っていない.しかし, 高齢者や義歯装着者にとっても咀嚼時に軟らかく, 食べ易い肉は, 重曹などにより軟らかく処理した肉であることが推測され, 肉の軟化操作の重要性が認められた.