本実験では水晶振動子法を用い, 固体脂肪汚れの脱離挙動の詳細を明らかにすることを目的として, TP, PA, ラードを付着した場合の振動数変化とアドミッタンス変化を測定した結果, 次のことを確認した. 1) 振動数変化の測定から, 脂肪汚れの除去過程において陰イオン界面活性剤では脂肪の除去にミセルが関与しないが, 非イオン界面活性剤ではミセルが除去に関与することが示唆された. 2) トリパルミチン, パルミチン酸, ラードがモデル洗浄過程でどのような状態変化を経るかを観察した結果, 複合脂肪のラードはトリパルミチンよりパルミチン酸とよく似た除去挙動を示した. 3) 水溶液中での脂肪の除去過程において, アルカリ溶液中では, 基質が水と界面活性剤により膨潤し, その後徐々に除去される過程が観察される. 4) 水晶振動子による脂肪の除去過程の観察において, 振動数変化による重量変化から脂肪の膨潤と除去が観察され, これらに対応してアドミッタンス変化により膨潤による見かけの粘性の上昇と除去による減少が観測された. 5) 市販洗剤を添加した場合, 振動数変化から脂肪への界面活性剤と水の吸着に続いて膨潤した脂肪の部分的な除去が認められた.これに伴ってアドミッタンスも変化するが, これは見かけ粘性の減少-増加-減少に対応する変化であった.この変化は活性剤の吸着-浸透による膨潤-脂肪の部分的な除去に対応すると考えた. 6) 2種の市販洗剤について, 両者による洗浄過程と洗浄力の違いを見ることができた.洗剤に含まれる界面活性剤の種類と汚れの種類によって, 脂肪を除去する量が弱アルカリ性洗剤の方が中性洗剤より大きい.いずれの場合も, 洗剤の存在下でPAやラードがまず膨潤した後に部分的な除去が起こる.この状態で機械力の寄与により汚れが除去されることが示唆された.