本研究では, 高齢者が食べ易い食肉開発を目的とし, 豚肉の重曹未処理肉, 重曹溶液浸漬肉 (0.2mol/ l および0.4mol/ l 重曹溶液浸漬) および豚挽肉に小麦粉を混合した再構成肉の力学的特性, 食べ易さおよび咀嚼運動について検討を行った. (1) 再構成肉の加熱処理後の重量減少率は, 重曹未処理肉や重曹溶液浸漬肉に比べ顕著に小さく, 再構成肉の保水性が大きいことが認められた. (2) 重曹未処理肉および重曹溶液浸漬肉の応力-ひずみ曲線において, ひずみ0.8 (m/m) までの圧縮では明確な破断点は認められなかったが, 再構成肉には, ひずみ約0.3 (m/m) で破断点が認められた.また, 重曹未処理肉および重曹溶液浸漬肉のひずみ0.8 (m/m) におけるみかけの応力の圧縮速度依存性は, 異なる傾向を示した. (3) ひずみ0.8 (m/m) におけるみかけの応力と咀嚼時のかたさおよび口中の残留物の多さの間には, 高い正の相関関係が認められた.一方, 咀嚼後に形成される肉食塊の飲み込み易さでは, 重曹未処理肉と重曹溶液浸漬肉については, ひずみ0.8 (m/m) におけるみかけの応力が小さくなるに従い飲み込み易くなることが示された.しかし, 最もみかけの応力が小さく, 咀嚼時にやわらかいと評価された再構成肉の飲み込み易さは, 0.4mol/ l 試料肉と同程度であった.再構成肉は4種の試料肉の中で最もおいしくないと評価された.このおいしさの評価が, 再構成肉と0.4mol/l試料肉の肉食塊の飲み込み易さの評価結果に影響を与えているものと推測される. (4) 重曹未処理肉と重曹溶液浸漬肉の嚥下終了までの咀嚼回数は, ひずみ0.8 (m/m) におけるみかけの応力が最も小さい再構成肉に比べ有意に少ないことが認められた.また, 最もひずみ0.8 (m/m) におけるみかけの応力が大きい重曹未処理肉の閉口相時間は, 他の試料肉に比べ有意に長く, 最大閉口速度も遅いものとなった.このことより, 重曹未処理肉は, 重曹溶液浸漬肉や再構成肉のような食肉加工品に比べ, 健康有歯顎者にとって, 咀嚼しにくい食肉であることが示された. 本研究の結果から, 食肉は重曹溶液により軟化処理を施したり, 挽肉を主な原料として再構成肉のように加工することで, 高齢者や義歯装着者にとっても, 咀嚼し易く, 食べ易い, 良質なたんぱく質給源のための食品になることが推測される.