本研究では「空巣家庭」の生活様態, 住空間の使用状況, 及び住戸に対する不満点を明らかにし, 今後の中国の高齢化社会において, 都市集合住宅における「空巣家庭」の高齢者に対応する住空間のあり方を考察した.その結果を以下に要約する. 1) 子供と別居する契機は60~70歳未満, 70歳以上では「子供の結婚」が多い.60歳未満では, 「子供の他の都市での就職」「子供の留学」という理由は他の年代に比較するとその割合が高い傾向がみられる.戸籍緩和制度により就職地域が拡大したことや, 大学入学以前から海外留学をする傾向にあることがこの背景にある.このように中年層「空巣家庭」化が始まっている動向が把握される. 2) 別居子との交流について, 「近居」「遠居」「遠遠居」の場合には, 「休日に会う」のが最も多く, 休日に子供と積極的に交流している世帯が多い.時間距離で最も近接している「近近居」の場合には, 「毎日会う」のが6割弱であり, 最も頻繁な交流がみられる. 3) 平日, 休日の昼間に, 多くの高齢者が「家事をする」「趣味を楽しむ」「社区の活動に参加する」「子世帯との団らん」など, 生活行動の多様さがうかがえる. 4) 食事状況について, 平日, 休日ともに, 三食とも自宅で食事をし, 配偶者と一緒に食べる者が最も多い.子供家族と一緒に食べる世帯は平日では極めて少なく, 休日でも4分の1程度である.休日に子世帯に会って, 食事をするという伝統慣習が薄れつつあることがうかがえる. 5) 希望の介護場所について, 「施設に入所する」「老人ホームに入る」を希望する者は少なく, 多いのは「自宅で介護される」である.自由記述からのその理由をみると, 「自宅で安心」, 「できる限り子供に負担をかけたくないが, 施設に入所したくない」といった内容を多くあげているように, 住み慣れた空間での自立を求めていることがわかる. 6) 住空間の使用状況について, 子世帯と積極的に交流している世帯が多いため, 居室が複数ある場合, 子供が宿泊できるような居室を設けている. 7) 住戸内において不満のある場所として, 最も多くあげられているのは衛生間であり, 約半数に達する.その不満点として, 「狭い」という面積上の不満, 「日当たりが悪い」, 「風通しが悪い」, 「滑りやすい」, という住環境に対する不満が多い. 8) 住戸に対する最も不満のある場所として「衛生間」であることと, 自身が病気になった場合は, 在宅介護を希望する者が多いことから, 住宅に対する改善要求として, 「衛生間に手すりをつける」, 「衛生間のドアを引き戸にする」という衛生間に対する改善要求が最も高く, 衛生問が住戸の中で最も改善が必要な空間であることが確認される.