本研究では, 空咀嚼時の唾液の性状, および寒天ゼリー食塊の性状に及ぼす加齢の影響を検討した. (1) 空咀嚼時の唾液量には個人差があり, 若年者および高齢者間には顕著な差は認められなかったが, 高齢者の方がやや少ない傾向が認められた. (2) 唾液のみかけの粘性率は個人差が大きいが, いずれの年代の唾液についても, ずり速度が増加すると粘性率が減少するずり速度流動化流動を示した.高齢者のみかけの粘性率は, 全体的に若年者に比べやや高い値を示した. (3) 食塊中の唾液量は, 咀嚼回数の増加に伴い増加し, 各咀嚼回数において高齢者の方が若年者よりもやや少ない傾向がみられたが, 年代間に有意な差は認められなかった. (4) 各咀嚼回数 (自由咀嚼, 10, 20, 30回咀嚼) における食塊中咀嚼ゼリーの粒度分布は, どちらの年代も咀嚼回数の増加に伴い4mm以下の小さいものの割合が増加した.10回および30回咀嚼には年代間に有意差が認められ, 高齢者の10回咀嚼で4mm以下が大変少なく(2.6%), 若年者の30回咀嚼で6mm以上が大変少なかった(1.2%).自由咀嚼, 20回咀嚼, 高齢者の30回咀嚼間では有意差は認められなかった. (5) 自由咀嚼食塊, すなわち飲み込む直前の食塊の硬さおよび凝集性は有意な差は認められなかったが, 付着エネルギーは高齢者の食塊の方が高値( p <0.001)を示した. (6) 高齢者は, 若年者と同程度の粒度分布, 唾液量を有する食塊を得るために高齢者は咀嚼回数を多くしていることが推察され, 唾液の質の違いから付着エネルギーの異なる食塊を形成していると考えられる.