我々がこれまで, 小麦粉及び小麦でん粉モデル系の固体相成分として用いてきた, 純ココア粉末の加熱用食材モデルにおける役割を確かめるため, 固体相を純ココアのみからなるモデル系を調製し, それらの力学測定, 熱物性値の測定及び水または油液中での分散試験を行い, 得られた結果について以下にまとめた. 1) RVA測定の結果, ココア粉末は小麦粉よりも, 加熱中の粘度変化が少なく, 小麦粉との等量混合物にした際もココアの物性を大きく受け, その熱的変化は少なかった.これにはココアの製造工程において, 加熱処理が加えられているため, 熱安定性が高いと考えられる. 2) 調製したココアモデル系において, 液相中水分量が0%のモデルよりも, 水分が100%モデルの方が熱伝導性が大であり, 内部の温度上昇速度も大であった.ココアモデル系内部の熱移動の速度は従来の食材モデル系と同様に, 含有水分量に依存することが確認された. 3) ココアモデル系の微小変形下及び大変形下での力学的性質に水分量依存性は少なく, 破断エネルギーにも水分量による差がみられなかった, このことは, 試料の水分量の多寡に関わらず, 種々の加熱実験中の形状維持に, ココア粉末の特性が大きな役割を果たしているといえる. 4) 特に従来の糊化するには十分でない低水分量域のモデル系の保形性維持に, ココア粉末がもつ両親媒性が大きく貢献していると考えられた. 5) 液中分散試験より, ココア粉末は水と油の量比に応じて, O/W型またはW/O型と分散状況を変化しうる両親媒性をもつ食材であり, 従来の食材モデル系の保形性にこの性質が大きく寄与していることが裏付けられた.