生物の保全のためには生活史を通してその特性を知る必要がある.本研究では,宮崎県の北川に生息するカワスナガニを対象にし,室内で孵化させたゾエア幼生を用いてその移動特性を明らかにした.さらに,現地調査によりカニ類の幼生の分布特性を把握し,これらの結果と北川の水理モデルにより数種の条件を設定し幼生の移動過程を検討した.その結果,ゾエア幼生の走光性による移動能力は齢を追って増す傾向にあること,生息には海水と同程度の塩分が適しており,塩水楔内に多く分布することを明らかにし,移動追跡計算にてこれらの選好性故に塩水楔内の上流向きの流れに乗って成体の生息域への回帰が容易に行われることを示した.これらの結果に基づき,保全に適した河川管理方法を提案した.