トリプトファンからニコチンアミドが生合成されるという点において, ナイアシンは他のビタミンとは異なる特徴を持つ。本研究では, トリプトファン-ニコチンアミド転換経路は, ナイアシンの栄養状態の維持にどのような生理的意義を持つのか明らかにすることを目的とした。ヒトを対象とした調査より, 67 mgのトリプトファン摂取から1 mgのニコチンアミドが生合成されること, 妊娠中期から末期にかけてトリプトファン-ニコチンアミド転換率が増加することを明らかにした。動物実験により, ナイアシンを摂取しなくてもナイアシンの栄養状態の維持に必要なニコチンアミドをトリプトファンから供給できること, トリプトファンからのニコチンアミド生合成に主要な役割を果たす臓器は肝臓であることを明らかにした。さらに, プラスチック可塑剤フタル酸エステルがトリプトファン-ニコチンアミド転換経路の鍵酵素であるアミノムコン酸セミアルデヒド脱炭酸酵素を阻害し, トリプトファンからのニコチンアミド合成を著しく増大させることを明らかにした。