卵白の熱凝固性を完全に消失させることを目標に実験を試み以下の結果を得た。 1) 鶏卵白に等量の2N塩酸を添加し, 100℃にて0, 20, 40, 60, 120分加熱し, 沈殿物をろ過除去したろ液は塩類の添加によってもまったく熱凝固しなかった。 また本液は微生物 ( E. ashbyii ) の培養に対し窒素源として有効に利用された。 2) 酸加熱処理の場合, 酸凝固による沈殿物量が総粗タンパク質の半量以上を占め, タンパク質の利用収率はわずか34%にすぎなかった。 3) 鶏卵白に等量の2N水酸化ナトリウムを添加した場合には, 沈殿物はまったく生ぜず, 100℃で加熱しても熱凝固物は生じなかった。 pH7に調製後のろ液に, 塩類を添加し再加熱しても熱凝固は起こらなかった。 4) 水酸化ナトリウムの代用として水酸化バリウムを用いると添加直後から沈殿物が生じた。 5) 卵白のアルカリ加熱の条件は, 0.1N NaOH, 15分間の120℃のオートクレーブ加熱が最も褐変も少なく良好であった。 この場合, 卵白のアルブミンとグロブリン画分の遊離のアミノ酸は1%程度であり, 大部分はタンパク質, ベブチドとして残存した。 6) 上記5) の条件で処理した卵白液を培養液として, E. ashbyii を培養したところ, 菌体は生育せず, 自己消化した。 さらに, 本卵白液にArg, Cys等のアルカリ性に不安定なアミノ酸を添加し培養を行なっても有効ではなかった。 したがって, アルカリ加熱中に微生物の生育を阻止するリジノアラニンような物質が生成された可能性が考えられた。