NO2-による食肉の詳細な発色機構を明確にするため, ホルスタイン種去勢牛の大腿筋の組織内ヘムタンパク質の酸化および還元の各過程を種々の条件で分光学的に測定し, 解析した。酸化反応過程については, NO2-によるHbO2の酸化反応と比較した。また, 筋組織内メト型ヘムの還元後の分光学的特性をしらべた。 1) 大腿筋の組織内ヘムタンパク質は, ポリアクリルアミドゲル・ディスク電気泳動の分析から, Mbが約75%, Hbが約20%, 残りの約5%がその他のヘムタンパク質であった。 2) NO2-による筋組織内ヘムとHbO2の酸化反応過程は, おのおのみかけの一次反応とS字形で進行した。したがって, 両反応系には著明な差が認められる。HbO2の酸化反応は, H2O2添加で促進, カタラーゼ添加で遅延した。しかし, 筋組織内ヘムの酸化反応は, H2O2やカタラーゼの添加による影響が認められなかった。一方, 両反応系ともにSOD添加による影響がみられなかった。これらの反応性の差異に対する理由を考察した。 3) 筋組織内メト型ヘムの還元速度は, pH 6.0とpH 7.4ともにNO2-濃度の低いほうがはやかった。同一のNO2-濃度では, その速度はpH 7.4のほうがpH 6.0に比べて約20%大きかった。[NO2-] / [heme] =1~2では, pH 7.4のほうがpH 6.0より約10時間はやく還元された。[NO2-] / [heme] =1 (pH 7.4, 5℃) のとき, 筋組織メト型ヘムがほぼ完全に還元されるまでに約16日を必要とした。[NO2-] / [heme] =10では, まったく還元されなかった。還元後の筋組織内ヘムは, 544nmと577nmに吸収極大があった。これは, 2価鉄ヘム (Fe2+) にNOが配位したNO型ヘムの誘導体と類似していた。