日本人の母乳中の脂肪酸, とくにPUFA含量を明らかにするため, 初乳16, 常乳30試料の総脂質の脂肪酸をAgNO3-TLC, CC-GCおよびCC-GC/MSにより分離定量した。また母乳中のPUFAの栄養学的意義について考察した。 1) 炭素数8から24までの飽和酸, モノエンおよびジエンからヘキサエンまでのPUFAさらに奇数酸, 分枝酸を含めて52種類の脂肪酸を検出し同定した。 2) C16: 0, C18: 1ω9およびC18: 2ω6がそれぞれ10wt%以上の主要な脂肪酸であり, この36種の脂肪酸で全体の60wt%以上を占めた。 3) 飽和酸のうちC10: 0, C12: 0は常乳のほうが初乳よりも有意に高値であったが, C16: 0は初乳のほうが高かった。 4) トリエン以上のω-6系PUFAはC20: 4, C20: 3, C22: 4およびC18: 3の順で少なくなり, 0.03~0.5%含有した。C18: 3は常乳のほうが初乳よりも高かったが, その他は初乳のほうが有意に高かった。 5) トリエン以上のω-3系PUFAはC18: 3およびC22: 6が約1%, 次いでC22: 5, C20: 5, C20: 4およびC20: 3の順で少なくなり, 0.05~0.5%含有した。C18: 3は初乳と常乳に差がなかったが, その他は初乳のほうが有意に高かった。 6) ω-6, ω-3系PUFAの多くは, 初乳のほうが常乳よりも有意に高いことから, これらの乳児に対する栄養生理学的重要性が示された。ω-6/ω-3比は, 初乳で4.43, 常乳で6.43であった。また両系列の中で含量の高いC18: 2ω6とC18: 3ω3には高い正の相関があり, 乳児の脂肪酸代謝との関連性が注目された。