フライ大豆と素炒り大豆についてタンパク質の諸性質と咀嚼時の人工消化性について調べた。実験に用いた加熱大豆はFS (フライ大豆), RS I (市販素炒り大豆), RS II (実験室で調製した素炒り大豆), BS (水煮大豆) であった。 1) 加熱により不溶化した大豆タンパク質は2%メルヵプトエタノールを含む1% SDS溶液でかなり抽出されたが, 加熱条件によって抽出率は異なり, BS>FS≥RS I>RS IIの順になった。 2) 加熱大豆では11Sグロブリンよりも7Sグロブリンの方が加熱により不溶化しやすいことが電気泳動図から示され, 11Sの塩基性サブユニットを除く各サブユニットの消失の程度はRS II>RS I>FSになった。 3) 加熱により損失を生じたアミノ酸はリジンであった。その損失率はRS II>RS I>FSの順となり, 有効性リジンの損失率も同様の傾向を示した。タンパク質の抽出率の低いものほど, 全リジンおよび有効性リジンの損失率は高くなっていた。 4) トリプシンインヒビター活性はRSI, RS IIでは消失したが, FSでは加熱時間が短いため, 少し活性が残存していた。 5) タンパク質の人工消化率は10~16メッシュの加熱大豆ではFS>RS I>RS IIの順になり差を示すが, 30~60メッシュのサイズでは消化率の差は縮まるので, 各加熱大豆の組織構造の違いが影響をおよぼす大きな粒子では消化性に差をもたらすと推定された。 6) 咀嚼後の加熱大豆の消化性は32~60メッシュ (膨潤状態) ではほとんど差を示さなかった。このサイズまで小さく咀嚼すると加熱方法の違いは影響しないと推定された。 7) 各加熱大豆の消物の分子サイズを比較すると, 人工消化率は見かけ上ほぼ同じでも, FSがRS IやRS IIよりも低分子ペプチドや遊離アミノ酸を多く生じ, 消化分解物の大きさにおいて加熱方法の影響が現われていることが認められた。