成人女子8名を対象に日常の食事摂取状態の中で9週間の食物摂取調査を行い, その前後に採血し, 血漿中の亜鉛, レチノール, RBPの測定を行い, その変化と相互関連を食事摂取との関わりで検討した。さらに塩化ナトリウムに対する味覚閾値の測定と塩味に対する主観的評価とを調べ, 三つのパラメータ (血漿中の亜鉛, レチノール, RBP) との関連を同時に検討した。 1) 1人1日当り体重1kg当りの平均摂取量はエネルギー30.8±4.8kcal, タンパク質1.07±0.22g, 亜鉛0.114±0.019mg, ビタミンA効力31±9IUであった。個人別の摂取量の変動係数はタンパク質18.2~34.7%の範囲にあり安定していた。亜鉛は18.4~67.0%であった。ビタミンA効力 (35.9~262.8%) とレチノール (48.3~391.3%) は個人内の変動が大きく, レチノールは個人の体重1kg当りの平均摂取量と変動係数の間に有意な正の相関が認められた (r=0.848, P<0.01)。 2) 血漿亜鉛, レチノール, RBP濃度は食物摂取調査前後の2回の測定間にいずれも有意差はなく, 2回の測定間でいずれも有意な正の相関が認められた (亜鉛: r=0.852, P<0.01, レチノール: r=0.748, P<0.05, RBP: r=0.779, P<0.05)。2回の測定おのおので三つのパラメータは相互に正の相関を示し, 血漿レチノールとRBP (1回目: r=0.778, P<0.05, 2回目: r=0.871, P<0.01) と2回目の血漿亜鉛とRBP (r=0.810, P<0.05) は有意であった。 3) 塩化ナトリウムの検知閾値および認知閾値の幾何平均値 (幾何標準偏差) はそれぞれ4.9 (2.1), 16.2 (1.5) mmol/lであり, 認知閾値と2回の血漿レチノールの平均値との間に有意な負の相関が認められた (r=-0.711, p<0.05)。 4) 塩味に対する評価と試験液の食塩濃度 (対数値) の関係は, 食塩濃度が高くなるに従い, うすいという評価から濃いという評価へ変わり, 両者の間には7名については相関係数0.8 (P<0.001) 以上と直線関係が成り立った。しかし1名だけはこの関係が明瞭でなく, 相関係数0.466 (P>0.05) と塩味の評価と濃度が関係しなかったが, この者は血漿亜鉛, レチノール, RBPともに低値であった。 以上の結果から, 9週間の期間中にいずれのパラメータも体内の状態に変化がなく, 期間中に一過性に大量のレチノールを摂取した場合でも血漿中の動態に影響がなかったといえる。また塩味に対する味覚に対しビタミンAの栄養状態が影響を与えていることが認められた。亜鉛がビタミンAの栄養状態に影響を与えることにより味覚に影響している可能性, および亜鉛欠乏それ自体の味覚に及ぼす直接的影響については今後の課題である。