腸内細菌による腐敗産物生成に及ぼすヨーグルトおよびその成分の影響を, in vitro 系で調べることを目的とし, インドール産生菌として E. coli 0-601, アンモニア産生菌として P. mirabilis 7082ならびにフェノール産生菌として Cl. perfringens 7083株をそれぞれ選択し, 検討した。3%のヨーグルトホエーを添加することにより, 0-601株のインドール産生量は著しく低減しtryptophanase活性も低くなることがわかった。これは, ヨーグルトから培地中に移行した乳糖によるtryptophanaseのリプレッションおよび培地pHの低下による影響と推察された。しかし, ヨーグルトホエーよりも乳糖量の高い発酵前のミックスを添加した際は, ヨーグルトホエーを添加したものと培地pHが同等であるにもかかわらず, インドール産生量が高いことから, ヨーグルトホエー中には乳糖以外にもインドール産生抑制作用を示す物質があるものと推察された。 一方, 尿素無添加培地では, 3%のヨーグルトホエーの添加により7082株によるアンモニア産生が若干抑制された。7082株はureaseの他に, アルギニン, ロイシン, アスパラギン酸, アスパラギン等のアミノ酸を加水分解してアンモニアを生成する脱アミノ酵素を有していることを認めた。とくにアスパラギン脱アミノ酵素活性が最も高く, アスパラギンのみを窒素源とした最少培地を用いても高濃度のアンモニアが生成された。また, 7082株のアンモニア生成酵素 (とくにurease) は低pHに対して感受性が高く, pH低下により活性がいずれも減少した。したがって, 尿素無添加培地にヨーグルトホエーを加えた際のアンモニア生成の抑制は, 培地pHの低下に伴って7082株のアミノ酸脱アミノ酵素等の活性が低下したことによると推察された。 一方, 7083株に対するフェノール生成抑制効果は, ヨーグルトホエーの添加ではまったく認められなかったが, ヨーグルトを添加した際に若干その効果が認められた。ヨーグルト添加培地の培養後のpHが, 無添加もしくはヨーグルトホエー添加培地より約0.6低かった。ヨーグルト由来の乳酸菌の増殖により培地pHが低下し, フェノール生成が抑制されたものと推察される。