肝細胞の細胞レベルにおけるグルコース放出調節機構を検討する目的で, 酵素固定化カラムと電気化学検出器を組み合わせた, グルコース特異的かつ, 高感度で, 測定手技が簡便な高感度微量測定系を作成し, ラット初代培養肝細胞系と組み合わせた新たな実験系を確立した。本測定系での最小測定濃度は10nMであり, その測定の変動係数は1.9%と, 再現性は良好であった。この系を用いたところ, 初代培養肝細胞からのグルコース放出は, 10-12~10-8Mまでのグルカゴン刺激により濃度依存性に増加した。10-9Mのグルカゴンの存在下に10-12Mから10-5Mのインスリンを負荷したところ, グルコース放出は1時間以内にインスリンの濃度依存性に抑制された。次に10-7Mのインスリン存在下に, phosphatidylinositol 3-kinase 阻害剤の wortmannin とLY294002をそれぞれ添加したところ, いずれも濃度依存性にグルカゴン刺激下のグルコース放出に対するインスリンの抑制を阻害した。以上より, 肝細胞におけるインスリンの急性作用の少なくとも一部には, phosphatidylinositol 3-kinase の活性化を介したリン酸化カスケードが関与しているものと考えられた。